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DNA複製・修復・分配の研究

人間の遺伝情報はDNAという分子に書かれています。ゲノム全てで、およそ30億文字のACGTの文字情報となり、1つの細胞に合計で2メートルにもおよぶ長さの長大なDNA分子があることになります。DNAは、細胞の10ミクロンほどの小さな核の中に、染色体という形で高度に秩序だった構造をとって格納されています(図1が染色体像です)。

 生物化学研究室では、染色体維持に関わる様々な因子をコードする遺伝子の変異や欠損をもつミュータント細胞をゲノム編集技術により作製し、染色体維持の仕組みを研究しています。ミュータント細胞を用いた研究例を図2に示します。この実験では染色体維持に関与する12種類の遺伝子のミュータント細胞と元となる野生型細胞を縦軸に示しています。4種の構造のよく似た化学物質(薬品)を横に並べています。横軸のバーは各細胞の化合物への感受性を示しています。変異体の示す感受性プロファイルをみると、薬品Ara-Cのみ他と少し違う傾向があることがわかります。このことから、この薬品は他の薬品とは違った作用をもつことが推測できます。染色体維持に関わる様々な遺伝子は、がん細胞において頻繁に変異しており、図2のような感受性プロファイル情報は、どのような変異をもつがん細胞にどの薬を提供すれば高い効果が期待できるか、論理的に予測するための重要な情報にもなります。

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非コードRNA転写によるクロマチン再編成制御の分子機構の研究

 ヒトゲノムにおいて蛋白質をコードする領域は、わずか約2%ですが、ヒトゲノムの70%以上から蛋白質をコードしない非コードRNAとして転写されています。非コードRNAの中には、サイレンシング、転写活性化などの遺伝子発現の各段階に影響を与える分子があります。さらに、非コードRNA発現領域と減数分裂期組換え部位の相関が指摘されるなど、非コードRNA転写と染色体機能調節の関係性が議論されています。これまでの研究で、非コードRNA分子自体が蛋白質を標的遺伝子座に動員する際のガイドRNAとして機能したり、転写制御因子に直接相互作用し機能調節したりするなど、個別の分子自体の機能の解析が進められていますが、機能が解明されている分子は非コードRNA分子の中のごく一部です。

 当研究室では、これまでに分裂酵母のグルコース飢餓ストレスにより誘導されるfbp1遺伝子上流領域で発現する非コードRNA、mlonRNA(metabolic stress induced long ncRNA)を発見しています(Hirota 2008 Nature)。この非コードRNAの転写により、転写領域のヒストンアセチル化およびクロマチン構造変換が転写領域上流から下流に順次開誘導され、転写因子の接近を可能とすることで、転写活性化に必須の働きをしています(図1)。このような事実から、当研究室では、非コードRNAを転写するポリメーゼの通過に伴う染色体機能制御の可能性を示唆し、パイオニアポリメラーゼ仮説「非コードRNAを転写するポリメラーゼがパイオニアとしてその通過領域のクロマチン構造を緩め、転写や組換えなどのDNAを基質とする反応の制御に寄与する」(図1)を提唱しています。本研究の目標は、パイオニアポリメラーゼ仮説の分裂酵母ゲノム機能調節における一般性の立証と、分子メカニズムを解明することです。さらに、この機構が高等真核細胞にまで広く保存された機構なのかどうか検討したいと考えています。

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